【彼方のアストラ】【感想】第七話『PAST』
あまりに面白い。
思わずオープニングを見直す。
初めてオープニングを見たときの「読みづらいな?」という違和感の正体はこれだったのか。
このふつふつと沸き上がる面白さ、最近で言えば『SHIROBAKO』『グリッドマン』、過去で言うなら『機動戦艦ナデシコ』だ。
一話の中でパッケージングが完成していて、クオリティが高い。
それが連なり、統合されて、全体を構成している。
全体像を俯瞰して作られた作品の強みがこれだ。
原作も優れているのだろうが、アニメスタッフの把握力、取捨選択能力も優れている。
伏線リンクチャートを作ったらその密度に驚きそうだ。
意識的だと思うが、毎話、複数の感情シーンを盛り込んでいる。
笑い、悲しみ、喜び、驚き、怒り、後悔…
ずっとシリアスなトーンで進むことはなく、ずっとコミカルなトーンで進むこともない。
5分ごとに、感情シーンが切り替わり、そのアップダウンに翻弄される。
メインシナリオの「どうなるんだろう?」という強い「ヒキ」に加えて、キャラクターたちの喜怒哀楽とコミュニケーションが混ざることで、常に視聴者の感情が刺激される。
見やすく、分かりやすく、謎めいていて、感情移入できて、好きになる。
良いゲームは、
・面白いこと
・分かりやすいこと
・興味が持続すること
・好きだと思えること
が必須要素だ。
ゲームに限らず「作品」と呼ばれるものはそうかもしれない。
(全てを超越した「崇高」という作品もあるけれど)
『彼方のアストラ』はこの全てを兼ね備えている。
おそらく、最後まで面白いままだろう。
アニメが最終話を迎えたあと、原作漫画の売上が一時的に伸びると思われる。それもかなり大幅に。
この作品は大切だ。
原作を早く買って読みたいが、それよりも先に「何も知らないまま最後まで見届けたい」という気持ちがある。
そして「全てを知ったあとで、原作を買おう」と思わせる力、親しみを覚える。
そう考えている視聴者は多いんじゃないだろうか。
今のアニメ業界では無理な売り方だが、全話収録して8000円くらいで売れば、かなりの売上がのぞめる気がする。
―――――
以下、関連インタビュー(上から順番に読むのが良いです)
◆コミックナタリー
【マンガ大賞2019レポート】
https://natalie.mu/comic/news/324532
◆まなびや
【元アシスタントの「本城まなぶ」によるインタビュー】
https://manaboy.jp/manga/interview_shinohara.html
◆コミックナタリー
【アニメ放映を迎えての原作者:篠原健太✕監督:安藤正臣の対談】
https://natalie.mu/comic/pp/astra
『彼方のアストラ』を一層楽しむ方法
彼方のアストラとは
現在放映中のアニメ。
原作漫画があり、すでに完結している。
作者は篠原健太。ジャンプで連載していた『スケットダンス』が有名。
いわゆる藤子・F・不二雄をリスペクトした漫画家。
つまり、ちょっと不思議で牧歌的な側面がありつつ、シニカルで冷静な面のある作風。
作品に対して確かな筋書きとギミカルな構造を意識的に持っていて、
読んでいて構造・感情ともに破綻なく気持ちよく読める。
抑えきれない感情、意味不明な恐怖、圧倒的な描写…といったアーティスティックな
作風ではない。
まあ、めっちゃ適当に書いてますけど、この文。
あらすじはここでは書かない。(必要ならwikiを見ればいい)
宇宙モノのSFで、学生漂流モノで、シリアスとコメディが混在した作品だ。
少しでもSFに興味があるなら、1話を見るだけで引き込まれるはず。
あとは続けて最新話までどーぞ。
映画で『インターステラー』が好きなら、楽しめるはず。
アニメなら『バイファム』…はどうかな。
『リヴァイアス』…これも怪しい。
漫画なら『漂流教室』…ではないな。
ドラマなら『宇宙家族ロビンソン』が近いのだろうか(見たことない)
ゲームなら…ふはは『SUBNAUTICA(サブノーティカ)』である。
『SUBNAUTICA』とは
はるか彼方の未来、海洋惑星に墜落した主人公が、孤軍奮闘し惑星からの脱出を目指す…サバイバルSFアドベンチャーだ。そんなジャンルかは知らない。
steamで販売されており、圧倒的な高評価を得ているタイトルだ。
現在は続編のアーリーアクセス版(作成途中版)が販売・開発されている。
そういえば、エピック社(フォートナイトの会社だね…いや、アンリアルエンジンの会社だよ!)が
開始したサービス「エピックゲームストア」の初回無料配布タイトルが、
このサブノーティカだった記憶。
「このタイトルを無料で配ればお客が集まるぜ」とエピック社が思った…
のかは知らないけど、人気がある証拠ではある。
(これを書いていて初めてエピックゲームストアにアクセスしたが、
めっちゃオシャレなサイトだった…steamもっと頑張れ)
さて、サブノーティカ。
これがめちゃくちゃ面白くてサイコーなゲームであることは当然だとして、
なぜ『彼方のアストラ』と絡めて紹介しているのか。
このゲームは「惑星でサバイバルしながら、脱出を目指す」内容だ。
つまり「未知の惑星」での「サバイバル」の大変さ、
これを「臨場感たっぷりに追体験できる」ゲームだ。
…そう!
彼方のアストラのクルーたちが遭遇する「あの極限状態」を
「あー、こういう感じなのか…」と「なんとなく」味わうことができるのだ。
「宇宙ってコエー、スゲー」
「衛星ってカッケー」
「未知の生物とかマジむりっすわ…」
「ロマンだろーが!」
というような感情。
これを事前に追体験しておくことで、
『彼方のアストラ』を極めて現実的に鑑賞することができるようになる。
これは大げさな煽り文句でも、誇大広告でもない。
なぜなら、私自身がサブノーティカのおかげで『彼方のアストラ』を
サイッコーに楽しめているからである…!
ということで『彼方のアストラ』を見よう
サブノーティカの宣伝がしたかったわけではなく(したかったけど)
本当にしたかったのは『彼方のアストラ』が面白いよ!という話。
あと、音がすんごく良い。
効果音もBGMも、どちらも高水準。
声優の演技もいいですねえ…細谷佳正の声がいいんだ。
メガロボクスのジャンクドッグの声がすんごく良かった。
そうだ『彼方のアストラ』の監督は安藤正臣さん。
『がっこうぐらし!』の監督。
『ハクメイとミコチ』の監督もやってる。
脚本は海法紀光さん。
『がっこうぐらし!』の脚本担当。
いわゆる「ニトロプラス組」。
【感想】【書籍】『血と汗とピクセル』
◆はじめに
海外のゲーム開発事情を、開発者のインタビューや元開発者(重要)の証言を交えつつ紹介したドキュメンタリー。
『デスティニー』や『ディアブロ3』に『アンチャーテッド4』といった超有名大作から『ショベルナイト』や『スターデューバレー』のようなインディーズ作品も紹介している。(こちらも超有名だけど)
本のタイトルにもあるように、血と汗を流す悪戦苦闘の戦いの記録であり、決して華々しい成功物語ではない。
海外の開発現場について報じるウェブサイトが増えた現在では、ここだけの秘話というのは少ないかもしれないが、著名なタイトルが列挙され、順に読み通せるのは悪くない体験だ。
◆そういえば電ファミニコゲーマーの本って
電ファミは、掲載記事をまとめた書籍を販売している。
普段から電ファミを読んでいる身からすれば、いくつかの記事がまとめられたとは言え、新規情報のない本に価値があるとは思えなかった。
ただ、本書『血と汗とピクセル』が一定の売上、需要があるのだとすれば、ウェブではなく本によって情報を得る人、得たい人にとってはこういう形もアリなのだろう。
もしかしたら、本書もkotakuで掲載していた記事の切り貼りなのかもしれない。
(本書の著者はkotakuの記者)
◆クランチが始まる
本書でもっとも興味深いのは「クランチ」という言葉だ。
「クランチ」とは日本で言うところの「デスマーチ」あるいは「炎上」または両方を併せ持った言葉だ。
つまり、プロジェクトに致命的な欠陥ないし遅れがあり、それを取り戻すために「開発期間の延長」ではなく「残業」というマンパワーによってなんとかする、という勤務状態のことだ。
日本でも海外でも、ゲーム開発は困難なミッションであり、クランチは避けられない。
ただ、面白いのは本書の開発者、とりわけディレクタークラスの人間がクランチを「やらざるを得ない」というある種ポジティブな、意識的に突入するモードであるという認識を持っていることだ。
日本のゲーム開発現場ではその言葉からも分かるように「デスマーチ」「炎上」とおよそポジティブとはかけ離れた言葉で表される。
できる限り避けたいが、いつの間にか巻き込まれる嵐のような状態、それが日本における認識だ。
デスマーチは、意識的に突入するモードではない。
右往左往する上層部、コンセプト無き開発現場が、仕方がなしに突入する状態だ。
海外はクランチを「さて、クランチを始めようか」といった感じで、開発手法の1つとして意識的に突入している印象を受けた。
ここには日本と海外の開発現場の意識の違いが現れている。
意識的に選択するということは、全体像やスケジュールが掴めていて、残タスクが把握できているということだ。
日本の場合は全体像が掴めていないからこそ、無限地獄を「デスマーチ」と呼称しているのだろう。
結局クランチ=過酷な開発に突入しているのは同じだとしても、終わりが見えている地獄と、終わりの見えない地獄ではモチベーションに差がある。
ということで、やはり海外のほうが開発現場のマネジメントは優れているのかもしれない。
◆インタビューできる環境
本書は非常に羨ましい。
日本ではこういったインタビュー、ドキュメンタリーは発行されない。
プロデューサーやディレクターによる開発秘話は語られるが(それこそ電ファミで)開発の痛みについては語られづらいのが現実だ。
ユーザーは最終的なアウトプットである商品しか目にしないが、その開発現場ではひとつひとつの決断に多大な労力が割かれている。
その地獄、あるいは困難について語られることが少ないのは、非常に残念だ。
本書のインタビュワーが優れているのか、守秘義務の適用範囲が異なるのか。いずれにせよ、もっと日本の開発現場の失敗談について語られてほしい。
◆ブレスオブザワイルド
ゼルダの『ブレスオブザワイルド』はCEDECでの講演などもあり、今やもっとも成功したプロジェクトのひとつだ。
だが、過去のインタビューを見るに、その背後に心折れた開発者たちが多数いるのではと想像する。
つまり、恒常的なクランチが発生していたのでは、という邪推だ。
2Dプロトタイプを作り、効率的なデバッグ体制を作り、三角形の法則を見つけ出した…この華々しい開発秘話の裏に「全社員での1週間通しプレイ」がくっついてくる。
ゲーム開発においては当たり前ではあるのだが、全仕様を実装したところで、実際にプレイしてみないと面白いかどうかは分からない。
分からないが、それを予め想定し、最低限の面白さを担保しておくのが企画の仕事である。
ゼルダは、作る→遊んでみる→意見を出し合う→作る…を何度も繰り返したラインだと予想する。
なんとも贅沢で、無鉄砲な開発現場だ。
いやまあ、実際は「こうしたら面白くなると思うんだよね」という仮定はあったと思うが。
検証による開発。
いかにも科学的というか「開発」という感じだ。
正解の見えないスクラップアンドビルド。
開発者たちは心を折りながら試行錯誤を繰り返したのではないか。
もしかしたら、全てはクレバーに事が進んだのかもしれないが…どうにもポジティブな側面しか語られずもやもやする。
本書でもっとも面白い章は『ドラゴンエイジ:インクイジション』について語られた章だろう。
あまりに上手く行かぬプロジェクト。
開発者間の疑心暗鬼と不和、定まらぬストーリーとひっくり返る仕様の数々。
多くの開発者たちが現場を去りながら、最終的には良いゲームを完成させる。
しかし、開発体制は改善されないままだったのだろう。
やがて『 Anthem』に繋がる悲劇の芽がここにある。
もっとも読み応えのある章で、涙無しに読むことはできない。
◆総評
本書は何らか知見を得るものではない。
単なるゴシップ、趣味の悪い本である。
ただ、非常に合理的で効率的な開発運用を行っていそうな海外の開発者たちが、国内の開発者たちと同様に苦しみながらゲームを作っているという事実が、少しだけ安堵感を生むかもしれない。
◆おそらく
続刊が出るだろう。
『Anthem』はもちろん収録されるはずだ。
【感想】『スター☆トゥインクルプリキュア 第16話 目指せ優勝☆まどかの一矢』
◆全体
プリキュア作品は何本かしか見ていない。
前回の『HUGっと!プリキュア』も今回の『スター☆トゥインクルプリキュア』もいまいち楽しめなかった。
むしろ苛立ちが勝っていた。
女児向け子供向けと言っても、このクオリティはなんだ?
どうでもいい動機付けで戦う少女たち。
感情的な導線を引かず、テレビの都合で怒り泣き戦う。
大人の都合しか感じないストーリー。
キュアマシェリとキュアアムールの覚醒回はとても良かったけれど。
ところが『スター』の16話は良かった。楽しめた。
なるほど、作品うんぬんではなく、自分の趣味思考が偏っているのかもしれない。
じゃあ、それはなんだろう。
◆『スマイルプリキュア!』
いくつかプリキュアを見て、一番楽しめたのがこの『スマイル』だ。
キャラデザも良かったが、まず引き込まれたのがオープニングだ。
不思議な光に包まれるピンク髪の主人公と、その背後に立つ変身した姿。
背を預け合う二人の表情に注目してほしい。
主人公は驚いた顔をし、変身した姿=プリキュアとなった主人公は自信に満ち溢れた笑みを浮かべている。
そう、この作品は「不思議な力を手に入れた少女たちの物語」なのだ。
ただ「変身して悪をやっつける」だけではない、そこには戦いの前に、ドキドキとワクワクが待っている。
『スマイル』はこのオープニングをコンセプトとして、物語が展開している。
いや、おそらく一貫したコンセプトがあったのだ。
「ドキドキとワクワク、それからちょっと笑えるプリキュア」という。
であれば、このコンセプトはどうやったら達成できるのか。
戦えばいいのか?
ドキドキするか?
するかもしれない。
ワクワクするか?
戦闘狂なら。
笑えるか?
無理かな。
じゃあ、どうする。
戦いに重きを置くのはやめよう。
日常を描こう。
そこにお約束の戦いを。
ただし、その戦いは日常の延長に。
何かを乗り越えるための手段にしよう。
『スマイル』はいつだってドタバタと物語の幕を開け、
そして次第に思い悩む人々が現れる。
そこにつけこむ悪党たち。
悪党は単なる厄介で迷惑な存在ではなく、
彼女たちが日常の問題を再確認し、乗り越えるための手段なのだ。
(いつもそうとは限らないけど)
この日常と戦いが溶け込んでいる感覚。
これこそが自分の求める物語、ということだろう。
『HUGっと』も日常は手厚かった。むしろ仕事や教育といった、大人との絡みが多かった分、『スマイル』よりも濃かったと言える。
だが、何か息苦しかった。
キャラが脚本家によって動かされている感覚。
言いたいことを言えず、言うべきことを言わされている感覚。
おそらく、敵が強大過ぎたのかもしれない。
敵の動機が強すぎた、社会性を帯びすぎていたのかもしれない。
中学生の少女たちが立ち向かうには、あまりに経験の差がある。
人生のなんたるかを知らない、だからこそ向こう見ずで純粋な力で悪に堕ちた大人たちを看破していく。
そこに爽快感があれば良かった。
『大人帝国』のしんちゃんは「ずるいぞ!」と叫んだ。
ここにはほろ苦い快感があった。
『HUGっと』にはそれがなかった。
『スマイル』はドタバタし、少女らしい悩みを抱えていれば良かった。
『HUGっと』は重たすぎる荷物(主題)を持て余していたように思う。
戦いは日常の延長に。
はっはっは。
『スター』は戦いと日常が溶け込んでいない。
「フワをモノみたいに言うな」
それが変身の理由?
そんな小さな理由を与えるくらいなら、強制的に変身させて戸惑わせたほうがいい。
心の力を描くなら、ちゃんとキャラを描かなければいけない。
変身は祝福であると同時に呪いでもある。
可能性と冒険の喜びと、
使命と戦いの苦しみと。
まあ、プリキュアにそれを求めているわけではないが、
無意味な戦闘は興ざめだ。
◆16話
だが、この16話は違った。
楽しめた。
結論は出ている。
日常に溶け込んだ戦闘だったのだ。
それだけではない、
日常にドキドキとワクワクがあった。
笑いは…あまりなかったけど。
物語の構成が日常に重きを置いた回だった。
ベースは弓道の試合の行方。
自分だけを信じるライバル。
悩みながらも、他の人々の思いを力に変えるヒロイン。
試合での接戦、均衡が崩れ、思いの力が勝利を呼ぶ。
戦闘は試合の行方を左右しない。
ただ、ほんの少しライバルの気持ちを教えてくれた。
本来なら知り得なかったライバルの気持ち。
もしかしたら気が付かなかった自分の気持ち。
それが戦闘によってもたらされた。
こういうシナリオが好みだ。
シナリオを書いたのは平見瞠さん。
『おじゃる丸』をライフワークに『アイカツ』も担当している。
日常描写に強い人なのだろう。
【感想】映画『海獣の子供』
本当にとりとめもない感想になることは分かってる。
STUDIO4℃が製作する、という一報を聞いて、全ての情報をシャットアウトした。
その知らせだけで、映画館で1800円を払う価値がある。
原作の漫画も知らず、どういう話かも、どういう絵かも知らない。
原作者の五十嵐大介さんからすれば、失礼極まりない客だろう。
彼にとっては、客ですらない。
事前情報がまったくなかったので、すべてが新鮮だった。
あるのは「作画を楽しもう」というひねくれた考えだけだった。
CMが始まった。
『ハイスクール・フリート』の劇場版らしい。
『ガールズアンドパンツァー』すら見ていないので、
険悪なパクリなのか、わりと正式なリスペクトなのか分からない。
『サクラ大戦』に対する『お嬢様特急』みたいな?
あるいは『バージンフリート』とか。
結構ライトな絵柄で、さわやかな感じは好印象だった。
そして『天気の子』のCMが始まった。
新海誠の作品は、ひとつも見たことがない。
『ほしのこえ』がテレビで特集されているのを見たくらいだ。
インディーズ、という言葉はまだなかったかもしれない。
『ペイル・コクーン』のほうが有名だったような?
気の所為に違いない。
相変わらず最高に美しい背景に、
ピュアなキャラデザで向かう所敵なしの田中将賀さんの描き出すキャラクターたちが駆けていく。
爽やかで、楽しげで、まさに青春…そして物語は意外な方向へ転がるようだ。
VTUBERによる館内放送など交えながら、ようやく本編が始まった。
ああ、こういう絵なのか。
事前情報のなかった自分にとって、主人公の少女のファーストインプレッションは「アート系なのね」という斜に構えたものだった気がする。
それが躍動感あふれるボール競技のシーンに移ってからは、
何もかもに魅了された。
主人公の声やってる人…めちゃくちゃ上手くないか!?
この絵、この性格…完璧に乗り移ってる。
このキャラがそこにいるぞ…。
スタッフロールで初めて知ったが、
声をあてたのは芦田愛菜さんだった。
なるほど、天才だ。
こんな、こんな難しい作品を、なんで演じきれるのか。
完成品を通して見ることができる観客すら、おいて行かれるシンプルながらもスピリチュアルなストーリー。
ぎりぎり「意味不明」になりかねない危ういこの作品の主人公を、なぜ演じることができるのか。
体内で爆発する、あの瞬間を──
なぜ、まるでどこかで演じたことがあるかのように演じることができるのか。
『パシフィック・リム』では絶賛されるほどの演技なのだろうかと思っていたが、
今回で完全に評価が変わった。
これからもアニメで声を当ててほしい。
事前情報がなかったので、劇中の曲を聞きながら「すごいな、作品にマッチしていて、ちょっと独特で…深呼吸してるみたいな自然な曲だ」と思っていた。
スタッフロールを見ると久石譲さんだった。
なるほどね、とはならなかった。
「マジかよ…!?」
と椅子からずり落ちた(嘘)
勝手に坂本龍一リスペクトなミニマル・ミュージックしか作れないかと思っていた。
バカにしていたわけではない…ない。
久石譲らしい曲調、それが当たり前だと思っていた。
今回の曲は、彼らしくなかったのだ。
ファンからすれば、過去の楽曲の延長線上にあるのかもしれない。
自分はただただびっくりした。
作品にマッチした最高の楽曲を提供してくださって、ありがとうございます。
エンディング、スタッフロールの曲も良かった。
事前情報がなかったので(また?)
米津玄師さんが担当していると知らなかった。
というか実は『Lemon』を聞いたことがない。
『マトリョシカ』は当時聞いていたが、ハチという名前は認識していなかった。
この楽曲も作品に合っていて、すごく良かった。
ちょっと歌詞があまりに作品にシンクロし過ぎな気もしたが、作品に対する敬意が感じられた。
深く呼吸を吐くような歌い方、深海に響くような独特のアレンジ。
作品の終わり際に、抜群の余韻を与えてくれた。
キャラデザが小西賢一さんだった。
本当に天才だった。
日本人は、彼の仕事に一度敬意を払ってもいい。
『耳をすませば』のバイオリンのシーンを担当し、
『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム! 』の原画で参加。
今敏の作品群。
『のび太の恐竜2006』の作画だって…本当にすごかった。
アニメーションの次の段階「線画がそのまま動く」という新境地を切り拓いた。
(山田くんは、ちょっと線画過ぎた)
宮崎駿に高畑勲、押井守、沖浦啓之に井上俊之、細田守に片渕須直、
もちろん今敏も。
『フリクリ』はどこ担当だろう…2話だろうか。
全部じゃないか。
日本のアニメの歴史的な作品を全部携わってる人。
『千と千尋の神隠し』だって、あのカオナシが暴走するシーンを担当した。
その集大成が、今作『海獣の子供』だったのかもしれない。
ジブリを「なんだか飽きちゃって」といって辞めた人が、
きっと「従来のアニメで出来なかったことをやってみたい」と考え、
今作を作り始めたんじゃなかろうか。
『スパイダーバース』はすごかった。
あれも新次元の表現だった。
ただ「理屈で分かる」表現だった。
なんとなく誰もが期待していた映像を、最高の形でまとめあげてくれた作品。
でも「想像の中」にある作品だった。
『海獣の子供』は異次元だった。
この映像を、誰かが頭の中に描き、それをスタッフと共有し、作画した。
それを着色、動画化、声を乗せて作品にした。
「想像の外」にある作品だった。
「想像の中」にない作品だった。
悪夢のような、ドラッグ的な…得体の知れない映像体験。
これこそが、STUDIO4℃でしか創り出せない奔放な映像。
だが、やはり…小西賢一さんの仕事が凄まじい。
歴史に残る、映像史に残る、アニメ史に残る映像だった。
映画館の中で、暗闇に沈み込みながら見てほしい映像だった。
小西賢一さんはチャレンジャーだ。
アニメは、水の表現を恐れてきた。
いや…恐れてはいないのかもしれない。
「スーパーアニメーターだけが担当できる」超難易度の部分。
国内アニメーターはディズニーの『ピノキオ』を見て羨んだだろう。
あの宮崎駿が作った『未来少年コナン』の第一話ですら、まだ水の表現については研究が進んでいなかった。(透明に塗るところを、青く塗ってしまった)
自分が初めて海を感じたアニメ作品は
湯浅政明さんが作った『スライム冒険記』だった。
暗い海、丘のように盛り上がり押し寄せる波。
海の恐ろしさを感じたのは洋画『パーフェクトストーム』よりも先だった。
小桜エツ子を天才だと思ったのも、この作品だ。
次にクジラの巨大さを感じたのは湯浅政明さんの『マインド・ゲーム』だ。
体外を目指して走り続けるシーンは、見ているこちらが息苦しくなるほどの密度だった。(途中に挟まれる「母ちゃん牛乳ありがとう」が最高)
水の美しさを感じたのは『フリクリ』の第三話『マルラバ』だ。
ロボットから引き剥がされたニナモリが水を口から吐き出す。
吐き出された水がキラキラと輝いて、とてもキレイな作画だった。
当時は大平晋也さんの作画だと思っていたが、もしかして小西賢一さんの作画?
いわゆるドロドロ系の動きだった。
そうそう『海獣の子供』ではシューズの作画に注目だ。
丁寧な線画を確認することができる。
丁寧だけど、ラフ。
柔らかくて、きっと原作の雰囲気を再現している。
羽海野チカさんのような線だとも思った。
『海獣の子供』で描かれた水、海、魚…これは日本アニメが描いてきた水の表現の集大成だ。
あの作品からも海と魚の表現について勉強したに違いない。
あるいは、自身が担当だったのかも。
ポニョが膨大な魚の群れに乗ってやってくるあのシーン…まさか、小西賢一さんが?
とりとめもなくなってきたので感想はここまでにしよう。
映画『海獣の子供』はメジャーな作品には成りえないが、
日本のアニメーションの到達点として一見の価値ありだ。
それに、最高のスタッフが高密度でシナジーを生み出した稀有な作品だ。
あ、渡辺歩監督もありがとうございます。(ついでみたいになってしまった)
ああー、『天気の子』も『プロメア』もいいけど、
この作品がもっと注目されてほしい。
『この世界の片隅に』をみんな見に行っただろー。
【感想】はたらくUFO
◆はじめに
Android版をプレイ。
『はたらくUFO』はハル研究所のチーム『HAL EGG』が開発し、販売されたアプリ。
ドット絵風のアートワークで、ハル研らしいファミコンライクなビジュアルを楽しめる。
BGMはテーマソングのアレンジでバリエーションを出している。
曲数自体は少ないが、耳に残るテーマソングで、全体の雰囲気は統一されている。
ゲームは「つかむ→はこぶ→おく(積む)」の3動詞で構築されている。
タイトルにある通り、ネタ元はUFOキャッチャーだろう。
ここに「重力」というよりは「重量」と「バランス」を混ぜて難易度を作り出している。
また「達成目標」を1ステージに対して3つ用意して「やりこみ」要素を用意している。
◆ビジュアル
アートワークがすばらしい。
ドット絵だからノスタルジーを刺激する、ということではない。
単純に、デザイナーのセンスがすばらしい、というだけの話。
絵にしても、アニメーションにしても、
「キャラ性が感じられる」
「愛着がわく」
「このゲームならではの絵」
になっていてる。
それにより「世界への愛着」を成立させ、
「このゲームに浸っていたい」という感情を生み出している。
とりわけ可愛いのがショップ店員。
1ドットの差で、眉間にシワを寄せて不機嫌な様子を作ったり、
商品購入後にニコリと笑ってくれたり、このキャラもまた世界に浸らせてくれる。
むしろ彼女?に会いたいがためにゲームをプレイして…というのは言い過ぎか。
ファミコン時代から、ドット絵にはさまざまな流派があると思われるが、
この「ゆるかわ」路線が生まれたのは『星のカービィ』だろうか。
イラストのゆるさがゲーム内に登場したのは初代『ヨッシーアイランド』だった気がする。「コンピュータードローイング」というやつだ。
カービィにしてもはたらくUFOにしても、さすがハル研である。
だてに『メタルスレイダーグローリー』を作っていない(ちがう)
◆ゲームプレイ
正直、イライラする。
当たり前だ、ネタがUFOキャッチャーなのだから。
上手くいかないクレーンの動きを、精神を落ち着けて繊細な指使いで抑える必要がある。
失敗すればイライラするが、そのイライラを放置するとゲーム成績が落ちる。
だから、イライラを制御しなければいけない。
クレーン制御というより、自制心制御のゲーム。
楽しくない、ということでもない。
コツコツと丁寧にシゴトを積み重ねていく体験は、周囲のキャラクターの感謝もあって、なかなかに達成感がある。
ただ、目に見えない「感覚」に頼ったゲームデザインゆえ、終始あいまいなプレイ感で、失敗時には大きないらだちを感じる。
特に、ちょこんと触れただけで荷物がゆっくりと崩れていくさまは、なるほどこれほどまでにイライラさせるのも才能がある…と達観する。
繰り返すが、楽しい体験でもある。
のんびりと、他のことに気を取られないゆったりと過ごせる時間があれば、きっとストレスは溜まらなかったに違いない。
◆本当の元ネタ?
本作の影には、このソフトがあった気がしないでもない。
UFOキャッチャーをネタとしたゲームはいくつかあるだろうが、
任天堂風味を足したのはこのゲームが初めてだからだ。
◆その他気になったところ
店員の「なのれす」口調がかわいい。
学芸員の困り顔がかわいい。
農場のおじさんのダンスがかわいい。
ステージセレクトで男性が照れるのがかわいい。
おすわりしてる埴輪?がかわいい。口元が良い。
結局、怪盗?みたいな女の子はなんだったんだ…。
サーカスのゾウさんがかわいい。
とにかく、かわいいが詰まっているアプリ。
【感想】『9時間9人9の扉』
■ゲームについて
簡単に。
過去にDSで発売されたタイトルのsteam移植版。
閉鎖空間に集められた男女9人が、9時間後に訪れる死を回避するために、時に助け合い時に争いながら、脱出を目指す。
ディレクターとシナリオは打越鋼太郎。
今作から始まる『極限脱出シリーズ』の他、
名作と名高い『Ever17』を描ける。
最新作『AIソムニウムファイル』を開発中。
■おおまかな感想
プレイしている最中はとても楽しめる。
マルチエンディングだが、いずれのエンディングでも無理やりな展開という感じが否めず、首をかしげる。
過程は良いが、結末はよろしくないゲーム。
ただ、ゲームは遊び終わった後だけでなく、遊んでいる最中の楽しさも重要。
このゲームは遊んでいる最中の楽しさはすこぶる好調なので、良いゲームだと思う。
買って遊んで損はない。
■脱出ゲーム
まさに脱出ゲームの遊びが多く盛り込まれている。
ポイントアンドクリックで様々なオブジェクトを調べ、ヒントを得て、小部屋からの脱出を目指す。
脱出ゲーム→シナリオ→脱出ゲーム…
を繰り返し、シナリオの終点を目指す。
合間に挟まる選択肢の結果に応じて、その後の展開が変化する。
フローチャートがいつでも閲覧でき、過去の時間に跳ぶこともできるため、分岐を追いかけるのは容易。
最近なら『レイジングループ』を想像してもらえばいい。
プレイしていないが、構造は『ひぐらしのなく頃に』が近いと思われる。
脱出ゲームのクオリティを問えるほどプレイ経験がないが、総じて難易度は低い。
不快なほど簡単でもなく、ちょっとした計算やメモを行う必要があるので、脱出ゲームの醍醐味である「自分で考えて解く」楽しさは担保されている。
少し『数字根』と『16進数』のネタが多すぎるかもしれない。
■オカルトとSF
作中には30分に1度は面白雑学が挿入される。
各キャラクターが神妙な顔でオカルト知識を披露し、必ず「ま、冗談だけど」という体裁で終わるのは苦笑するが、どのネタも面白い。
「へえ、そうなんだ」
「たしかに、そうかも」
「マジか」
という驚きが30分ごとに訪れるのは心地よい。
なおかつ、この雑学が全てトゥルーエンドにつながっていて、無意味なものがない。
というより、先にエンディングを決め、それらに関するネタをかき集め、シナリオ全体に散らばらせたのだろう。
だから、突然キャラクターが雑学を披露し始めることになっているのだと思う。
繰り返すがやや唐突な挿入ではあるものの、ネタは大変面白いため、なんら不快感はない。
■ボイスと演技
本ゲームの一番の特徴はボイス、あるいは演技だ。
ゲームは人並み以上に遊んできたが、こういったボイスは珍しい。
まず、演者の音量が小さい。
ささやき、独白…ユーザーに聴かせることよりも、キャラクターの演出を重要視している。
そのため、画面のチープさ(元がDSなのでどうしても)の割に演技が生っぽく感じる。
デスゲームものは、つまるところサバイバルであり「生きるか死ぬか」を描く。
そこで演技が生っぽい=キャラクターの存在感が濃い事は、非常に臨場感を底上げする。
次に、演者が早口である。
ゲームテキストはほとんどが「重要な情報」なので、必読させるように意識されて書かれている。
ただ、見た目にテキスト本文が表示されているのだから、ボイスまで「聞こえやすい」「はっきりしたもの」にする必要はない。
先程の「声が小さい」と同様に、早口な様子はキャラクターの生っぽさを強化する。
そうでなくてもサバイバル、自然早口になったり、思考を整理するために独り言を呟くこともあるだろう。
独り言は対話ではないため、早口になるのも納得できる。
これらの演出により、ライブ感がある。
近いのはラジオドラマかもしれない。
意図的な音響監督による演出だと思われる。
■ギャルゲーらしさ
ところどころテキスト、キャラクターとのやり取りに顔を出すギャルゲーらしさ。
不要だったと思う。
おそらく、ライターの癖…ではなく、ユーザーへの不安、不信感だろう。
媚を売らなければならないという強迫観念。
本作がある程度受け入れられたので、次作以降では減っていくのではないかと思われる。
■ラスト
最後の展開、最後のエンディング。
衝撃ではある…が、さすがに展開が早すぎてついていけない。
さらに放りっぱなしの設定も多い。
過程が面白いゲームなので許容できるが、さすがにヒドい。
大逆転裁判をリアルタイムに買った人の気持ちを理解した。
続編につながるとしても、作品内で謎は完結させるべきだ。
イシイジロウらの4gamerインタビューを見るに、
社内でもメジャーな開発チームではなかったらしいので、とりあえずの完成を優先したのだと思う。
■総論
遊ぶ価値のあるゲーム。
雑学だけでも価値観を変化させるパワーがあるので、価値がある。
シナリオ自体も他にはないトリックで面白い。
人に勧める際は「過程も加点」という姿勢を持てる人かどうか。
粗いが、記憶に残るゲーム。