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【感想】【小説】『東京×異世界戦争 自衛隊、異界生物を迎撃せよ』

東京×異世界戦争 自衛隊、異界生物を迎撃せよ (電撃文庫)

東京×異世界戦争 自衛隊、異界生物を迎撃せよ (電撃文庫)

 面白いけど、色々物足りない作品。

 読み始めてすぐに気がつくのが「シンゴジラ✕ゲート」という組み合わせ。ゲートの展開を下地にシンゴジラ手法を取り入れたというのが正確か。緻密な自衛隊描写により情報を摂取する気持ちよさがあるものの、物語展開は想像の範囲を超えず「この先どうなるのか」という緊張感はない。また、どうしても先に挙げた2作品の影響下にあることがチラつき「似てるなあ(似せ過ぎだなあ)」という感想が離れないため客観的に読まされる。なので、没入感が削がれている。

 作者の力量を見るに、綿密な下調べは得意とするところで、それをほどよくフォーマットに落とし込むこともできる。ただ、独創性や思わぬ展開を描こうという意識、あるいはスキルがないのかもしれない。といいつつ、後書きを見るに編集者の意向な気がしないでもない。「シンゴジラ✕ゲートで1冊書いてください」というオーダーだったんじゃなかろうか。そのオーダーには正しく応えている。作者がんばった。

 読んでいる間は割と楽しいが、読み終わった後には何も残らない、そんな作品だ。

 ただ、この風呂敷の広げ方で続刊があるならば読んでみたい。ゲートと同じような異世界蹂躙ものになりそうな気がするが、異世界の内政と軍事衝突を今作のようにリアリティを持って創作出来れば、なかなかユニークな立ち位置を確立しそうではある。『A君(17)の戦争』のリアリティ強化版が理想。(あと、過剰なえっち要素を入れない)

 このバランス感覚は既存の作家で言うと有川浩が近い。といっても『図書館戦争』や『植物図鑑』ではなく『空の中』か『海の底』の有川浩だ。『塩の街』は除外される。空、海のどちらも自衛隊✕未確認生物とのやりとりだが、昨今のラブコメ有川浩に比べると自衛隊の活躍濃度が高い。今作の作者は有川浩を参考にすれば、かなり伸びるのではないかと夢想する。

 その理由として、今作には緻密な自衛隊描写以外にもう1つ優れた点があるからだ。それは「極限状態の人間の感情」である。作中のトリアージのシーンや病院から逃げる人々のシーン、わだかまりのある父娘のやりとりなどは斬新ではないにしろ、適切な言葉運びによってじんわりと心に溶け込んできた。この能力を伸ばせば、作者はより飛躍できるものと考える(えらそう)

 あとは「独創的な展開」を少しでもいいから付け足せる能力だろうか。プロットを作る能力はありそうだから、方向性を編集者が示せばよい。「シンゴジラ✕ゲート」では二番煎じだし、作者のヒューマンドラマスキルを活かしきれない。単純ではあるが、異世界から来訪した少女を持ち込んで、リアリティを担保しつつ主人公と世界はどのような決断をするのかなど、異物とのコミニュケーションを交えるのがいいのではないか。創作難易度はあがるが、単に排除する敵との戦闘ではなく交流と別離が描けるフォーマットを用意したほうが、作者に合っているのではないか…どうかな。

 有川浩の初期成功は自衛隊✕ラブコメなので、同様に自衛隊異世界ヒューマンドラマでどうでしょう。うーむ、もはやライトノベルをやめたほうが成功する人かもしれぬ。テロリズム、カルト、有事…そのあたりを描くのが良さそうではある。が、作者はライトノベルが好きな気もするし、リアリティのあるラノベはまだまだ市場が残っているので、がんばってほしい(えらそう)

空の中 (角川文庫)

空の中 (角川文庫)

海の底 (角川文庫)

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