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【感想】【小説】『七つの魔剣が支配する』

七つの魔剣が支配する (電撃文庫)

七つの魔剣が支配する (電撃文庫)

 『このライトノベルがすごい!2020』にて一位だったので読んでみた。結論から言うと面白い。文章力もあるし、ボリュームも十分、お色気から熱いバトルまで様々な展開が用意され、ジャンル越境的なバラエティに富んだ娯楽作品になっている。とくに剣劇(魔剣劇と言うべきか)の描写は、作者自身も憧れているという秋山瑞人風味の切れ味鋭い文章で読んでいて心地が良い。

 ジャンル越境、これができるのは技量の巧みさと各ジャンルへの造詣の深さがある。本作はハリポタ風な魔法学院モノに魔法剣劇バトルを混ぜ合わせ、さらにミステリの謎めいた味付けで興味を引かせ、ラブコメ要素で万人へアピールしている。そして最後には…メインは〇〇モノというジャンルであったことをばばーんと種明かしし、次巻以降へと読者を誘う。

 正直文句の付け所はないし、文句を言う権利もないので、ただただ自身の勉強のために本心に問いかける。つまり、イチャモンタイム。

 剣劇に関して言えば、本家の秋山瑞人ドラゴンバスターに比べると勢いが足りない。おそらく語彙の豊富さというところもあるだろうけど(とはいえ秋山瑞人はベテランです)舞台移動の少なさが影響しているだろうか。本作は閉鎖空間での剣劇が多い。バトルで言えばJRPG的で、アクションゲームではない感じ。対して秋山瑞人はアクションゲーム的で、空間もそこに置いてある物申す存分に扱いぶち壊す。その体感の激しさの差が、勢いの足りなさとして認識されたのだと思う。

 あとはキャラクターたちの心情だろうか。いずれのキャラクターも適度に慌てふためき、適度にしっかりしていて好感の持てる性格だ。ただ、プロフェッショナル過ぎる。事態に対して冷静すぎて親近感が湧かないのだ。読者とキャラクターの距離感は下位(悲惨さを笑う)、同等(一緒に感じる)、上位(憧れる)の3つがあると思うけど、上位と感じるには子どもで、同等と感じるにはプロ過ぎる。だから、感情移入のスタンスを定めるのが難しく、客観的に事態の推移を眺めてしまう。秋山瑞人の場合はEGコンバットの1巻目冒頭で、とんでもない感情移入を引き起こし、あとはぐいぐいと巻末まで引っ張る力があった。本作にはミステリ要素がふんだんに散りばめられて先へと読み進める吸引力として利用していたけれど、ややキャラクターたちが全員探偵的で、ドタバタが足りなかったのかもしれない。金田一少年で言う美雪ポジションか、彼方のアストラで言うアリエスポジションが欲しかった。本作は主人公に寄り添うのが天然バトルマニア侍ガールなので、ちょっぴり間抜けさが足りなかった。

 とはいえ、間抜けさというかほのぼのとした雰囲気はこの作品の本来の主題には相応しくない。ブラフとしての仲睦まじさを演出しつつ、ベースはシリアスでひりついたトーンに統一するのが最善か。

 つまり、この作品を評価するなら2巻以降となる…が、1巻ごとの販売である以上評価は平等にしておきたいところ。

 結論としては、総じてクオリティが高く楽しめるが、メインテーマをひた隠す構造が、どこか他人事めいた冷静さを生み出している「やや残念」な作品となる。

 編集者の技量の差かも知れないが『86』のほうが完成度は高かったように思う。

 と言うことで、2巻を読んでみよう。