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【感想】【小説】『マッド・バレット・アンダーグラウンド』

マッド・バレット・アンダーグラウンド (電撃文庫)

マッド・バレット・アンダーグラウンド (電撃文庫)

 読み応えがあって独自の世界観も展開しつつ、テーマに沿った文体の完成度も高い。面白い作品。

 体内に「悪魔」を飼う能力者たちが、欲望渦巻く都市で、ひとりの少女を巡って血で血を洗う死闘を繰り広げる物語。

 スラムもの、というジャンルはあるだろうか。アウトローもの、ギャングものというジャンルはあるだろう。だが、スラムという「場」こそが、それら「はみ出し者」を生んでいるのではないだろうか。スラムは劣悪な環境で、人々は常に飢えて暴力が日常茶飯事になっている。力でのし上がろうとする者もいれば、使い捨ての駒として外部からチンピラたちを支配するエリートもいる。身体を売り歩く娼婦もいれば、親の虐待から逃げてきた子どもたちもいるだろう。思考よりも行動が優先されるサバイバル空間で、人々は常にぶつかりあい殺し合う。スラムもの、というジャンルがあるかは知らないが、この「場」を選べば自然と物語展開が紐付いてくる。

 さて、主人公たちの立場である。スラムで暮らす者であれば、怠惰な現状維持か、今日のためにあくせく生きるか、明日のために爪を研ぐほかない。いずれにせよ、幸運か不運か、今を変えられる力(もちろん金の場合もある)が舞い込みさてどうするか、が始まりになる。本作ではマフィアから依頼が舞い込み、そこで奪還対象の少女と出会ったところから、非日常が始まる。主人公含めて登場人物のほとんどが「悪魔憑き」であるため、能力者バトルが頻繁に発生する。主人公と少女の親睦は描かれつつもメインではない。映画『レオン』の雰囲気ではなく、バトルものといったほうが相応しい。『バナナフィッシュ』よりは『血界戦線』のほうが近い。だから、物語全体から静謐さや美しさよりは赤と黒の躍動感があふれる。アニメなら『DARKER THAN BLACK』が近い気もするが、むしろ『HELLSING』か『BLACK LAGOON』が近い。『ジオブリーダーズ』ではない。

 スラムもの、というジャンル名は不適切な気がしてきた。『血界戦線』はニューヨーク的な都市で、ただ混沌としている。欲望が支配する都市「混沌都市」、あるいは「カオスシティ」と呼ぶほうがいいか。シティと呼ぶことで気がつく。そうか、バットマンの「ゴッサムシティ」もまた混沌都市である。住民も市長も等しく狂っているのがよろしい。本作について言えば「隔離・混沌都市もの」というジャンルが適切かも知れない。そこに能力者バトルを混ぜ合わせ、下地にソロモン王の悪魔を配している。単なる能力者とせずに「悪魔憑き」としたところが優れた点で、出自の独自解釈と能力制限、またその裏をかいた利用方法については、読んでいて説得力があり飽きが来ない。悪魔のバリエーションが豊富なことは約束されているので、続刊も期待できる。とても賢い設定である。

 面白い作品ではあるが、読書カロリーは結構ある。読み進めるのが疲れる作品だ。500ページ以上に渡って同じテイスト、テンションが続き、しかも血と硝煙の香りだけなので、疲れてしまう。もう少しだけページ数が少なくても良かったかもしれない。無駄なシーンはなかったように思えるが、読み返すと冗長さは見つかるはずだ。

 あとはイチャモンとしては、タイトルが気になる。マッドカプセルマーケッツに比べると言いづらく、東京アンダーグラウンドよりも覚えづらい。単語が3つ並んでいるだけで、全体を1つの言葉として認識しづらい。確かに悪魔の封じ込められた弾丸がガジェットとして存在するが、それをマッドバレットと呼ぶのは意味が遠すぎる。あるいは主人公たちの存在、生き方をマッドバレットと呼ぶか。その解釈が正解なのか読者には分からない。混沌都市ならばケイオスシティと呼んでもいいが、シティと呼ぶと途端に都会感が増し、近未来感もくっついてしまう。悪魔と人間について語るなら『デモンベイン』は最高のタイトルだった。一度耳にしたら忘れない。それにならって今作も『デモンクライ』とするのはどうか。ダサいか。ニトロプラスのタイトル群はなぜカッコいいのか。ヴェドゴニアのように創作名称を名付けるのがよいのか。あるいはパニッシュメントやサンクチュアリといった神罰的な名称がいいか。

 タイトルの付け方を勉強してみよう。