今日は「や」の気分

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【彼方のアストラ】全話視聴後の感想

最後まで軸のブレなかった貴重な作品

作者の中で「やりたいこと」「できること」が明確に定義された上で作られた作品だと感じた。

作者は初期案がボツになった後、主人公をコミュ断ちタイプからリーダータイプへと変更したとインタビューで答えているので、試行錯誤はあったのだろう。

ただ、書きながら考えている作品ではなく、スタートからゴールまでプロットが練り終えた後に書かれたと想像させる完成度、整合性の高さだった。

 

確かに伏線が露骨だったり、都合の良い展開も多かったけれど、そこには意図がきちんとこめられており、丁寧に描かれていたから不快感は微塵もなかった。

テンポの良さがウリだが、少しテンポが早すぎた気はする。

ただ、これは物語を凝縮したアニメ版だからかもしれない。

漫画版は書店で購入する予定。

amazonで頼むより、書店で購入したい作品だった。

SFであるかどうか

「SFとはなんぞや?」を語るほど、ジャンルに精通していないので、言及は控える。

サイエンスフィクションであればSFなのでは、と思う程度なので「宇宙が舞台」「未来が舞台」であればSFだと思う。

「SFとして正しいか」と「物語として面白いか」は関係がないので、評価軸は別にしたほうがいいんだろうな、と思う。

「キャラクターたちが魅力的に描かれていたか」もまた別の評価軸だと思うし。

 

100点か0点かという評価は趣味ではない。

どこかの瞬間で満足感を覚えれば、見終わった後に微妙な気分だったとしても「自分の中に価値を残した」ということで、加点される。

 

この騒動?の中でとても嬉しかったのが『ロケットガール』などの作者である野尻抱介さんが(氏と書くのもなんだか)きちんと作品を褒めていたことだった。

ライトな小説もハードな小説もかき分けるSF作家界の大御所(といっても差し支えないはず)から評価されたというのは、作品のファンからすればとても誇らしいことだっただろう。

そういえば、綾辻行人さんもツイッターで「面白かった」と言っていたけれど、他の小説家や漫画家は視聴していたのだろうか。

 

キャラクターを描いた作品

『彼方のアストラ』が評価されたのは、丁寧に伏線を回収し、それを分かりやすく伝える構成力もさることながら、やはり「キャラクターの描き方」がもっとも評価されたところではないだろうか。

カナタやザック、キトリーといったキャラクターたちは、いずれもが設定だけを見るとパターン化されたオリジナリティのない(ない、は言い過ぎか)存在に見える。

けれど、彼ら彼女らが「事態について反応する(リアクション)」と、途端に血の通った愛すべき人物へと変化する。

視聴者が個別のリアクションと、それがキャラクター間で連鎖反応(交流)する様子を目にすると、手助けできない画面外の傍観者として、強い感情移入が発生する。

単にリアクションを起こせば感情移入できるというものではなく、作者が描く「地に足のついた現実味のあるリアクション」こそが、この感情移入を引き起こしている。

 

作者は前作『スケットダンス』にてギャグを豊富に披露した。

ギャグは読者の感情に問いかける高度な営みだ。

泣かせたいなら、大切な人間を殺せばいい。

怒らせたいなら、主人公の愛すべき人にヘドが出るような不幸をもたらせばいい。

しかし「笑い」となると、難しい。

読者のパーソナリティ(知識、モラル、環境、個体差)によって、面白いか面白くないかが分断されてしまう。

人を笑わせるためには「道具」として「相手が持つ日常」を利用するしかない。

「相手が持つ日常」を利用するには「相手(読者)のことを想像し、分析する」必要がある。

つまり、ギャグを知る人は客を知る人なのである。

 

だから、作者の篠原健太さんは、読者の日常=何を見せればどう感じるのかを研究している人だと想像できる。

作家と呼ばれる人がそういった性質を持つのだとしても、ギャグは特にリサーチが求められる。

 

まとめ

『彼方のアストラ』は言葉巧みに視聴者を誘導し、それを完了させた稀有な作品だ。

巧みさ故に反感を覚える可能性もあったが、根本にはストーリーではなく「キャラクターを丁寧に描く」ことが据えられているため、反感の機会は減少しているか、失われている。

非常にありがたいのが、作者の価値観について信頼がおけるため、今後どのような作品が発表されようとも、期待しかないということだ。

似た作家として石黒正数さんが挙げられる。

 

この作品をアニメ化しようと考え、尽力した人々。

そして監督と脚本家のお二方。

もちろん原作者に対しても、感謝の念しかない。

 

そして、悔しいなー。

こんなきちっと作られた作品って、珍しいんだよなー。